さがしています
マンションの掲示板に貼られた、迷い猫の張り紙です。猫が見つかったあとも、書きこみが止まりません。
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管理人 くろこ
さがしています 迷い猫
- なまえ
- むぎ
- 猫
- 茶トラ・オス・7さい
- いなくなった日
- 8月30日(日)の夜
- とくちょう
- しっぽの先が、かぎのように曲がっている 左耳に、小さな切れこみ おなかだけ白い よぶと「ニャ」と短く鳴く
- 連絡先
- 402号室 杉浦(郵便受けへお手紙でも)
見かけた方は、日にちと場所を、下に書いてください。
9/2 ミモザの裏の自転車置き場。茶トラで、しっぽの先が曲がっていました
9/4 霜見第二団地の裏の空き地。左耳の切れこみ、ありました
9/5 402 杉浦です。空き地、さがしに行きましたが、いませんでした。夜にもう一度行きます
9/8 同じ空き地。人が近づくと、草むらに逃げます。首輪はしていません
9/12 402 杉浦です。見つかりました!けさ、玄関の前にちょこんと座っていました。ご協力ありがとうございました
9/15 空き地に、まだ茶トラがいます。しっぽの先が曲がっています
9/16 402 杉浦です。むぎは家にいます。病院の先生にも、むぎだと言ってもらいました。べつの猫だと思います
9/19 空き地の茶トラに、えさをあげています。人なつこい子です
9/21 402の方を見かけました。夜中の2時すぎ、空き地で。はだしで、茶トラをじっと見ていました
9/22 402 杉浦です。その時間は、家で寝ていました。人ちがいです。わたしのことは書かないでください
9/23 402の方、今夜も空き地に。「杉浦さん」と呼んだら、ふりむいて、にっこりしました
9/24 402 杉浦です。管理会社にも警察にも相談しています。書いている方、名のってください
9/26 空き地の茶トラを保護して、霜見どうぶつ病院でチップを読んでもらいました。マイクロチップの飼い主は、402号室の杉浦さんでした。
掲示期限 9月30日まで(期限まで、はがさないでください) ミツバ住宅管理
八月三十日の夜、むぎが網戸のすきまから出ていった。次の日、マンションの一階の掲示板に張り紙を出した。管理会社のミツバ住宅管理の森下さんが、すぐに許可の判子を押してくれた。保健所と霜見どうぶつ病院にも、届けを出した。
九月十二日の朝、むぎは玄関の前に座っていた。保健所と病院には、その日のうちに取り下げの電話をした。十四日に病院へ連れていくと、先生はしっぽの先と左耳を見て、「むぎちゃん、おかえり」と笑った。帰ってきてから、むぎは夜、わたしの枕の横で、わたしの顔のほうを向いて眠る。
張り紙は、期限の九月三十日まで、はがせない決まりだという。書きこみは、むぎが帰ってきてからも続き、九月二十一日からは、わたしのことになった。森下さんにも警察にも相談したが、書きこみだけでは何もできないと言われた。
マンションの掲示板に貼られた、迷い猫の張り紙です。猫が見つかったあとも、書きこみが止まりません。
›ヒント1
9月21日から、書きこみは誰のことになりましたか。夜中の空き地にいた「402の方」は、誰だったのでしょう。
›ヒント2
病院の先生は、帰ってきたむぎの、どこを見て「むぎちゃん」と言ったでしょう。張り紙の「とくちょう」と並べてください。
›解説を読む(ネタバレ)
ひとことで言うと
家にいるむぎは、むぎではない。夜は杉浦さんの顔で外にいる。
そう言える理由
- 1
「先生はしっぽの先と左耳を見て」
→ 確かめたのは張り紙に書いた目印だけ。チップは読まれていない。
- 2
「わたしの顔のほうを向いて眠る」
→ 帰ってきたものは、夜ごと杉浦さんの顔を覚えていた。
- 3
「マイクロチップの飼い主は、402号室の杉浦さんでした。」
→ 空き地の猫が本物のむぎで、家にいるのは別のものだ。
記録室の追記
病院からの電話に、402号室の杉浦さんは「うちのむぎは、家にいます」と答えたそうです。
›もっと詳しく
空き地の茶トラのチップは杉浦さんのもので、本物のむぎはずっと空き地にいた。9月12日に玄関の前に座っていたのは、張り紙に書かれたとおりの姿をしたもので、病院の先生も、張り紙にある目印しか見ていなかった。それは夜ごと枕の横で杉浦さんの顔を覚え、杉浦さんが眠っているあいだ、その姿で空き地の本物のむぎを見張っていた。
入口は、見つかったあとも続く書きこみです。むぎは帰ってきて、病院の先生にも「むぎちゃん」と言ってもらった。それなのに誰かが空き地の茶トラのことを書き続け、9月21日からは杉浦さんのことを書きはじめます。夜中の空き地にはだしでいた、名前を呼んだらふりむいた。杉浦さんはその時間は寝ていたと答えています。杉浦さんに似た誰かがいるのか、書いている人がうそをついているのか。そう読めます。
けれど、空き地の茶トラのチップは杉浦さんのものでした。9月12日に帰ってきた「むぎ」を、病院の先生は、しっぽの先と左耳を見ただけで帰しています。どちらも張り紙に書いてあった目印です。夜ごと枕の横で杉浦さんの顔のほうを向いていたそれは、杉浦さんが眠っているあいだ、杉浦さんの姿で、本物のむぎを見に行っていたのです。

管理人 くろこ
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