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記録 No.021分類:回覧板

回覧板が来ない週 第1話

転入のお知らせ

引っ越した当日に出た、はじめての回覧板です。ご近所には話していないことまで、書いてあります。

しろちゃんの反応●●●●●読む目安 約2分
  • 連作
  • ご近所
  • 住まい
  • 人怖
  • 違和感
  • 心霊なし
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管理人のくろこ

管理人 くろこ

今夜は、霜見第二団地の回覧板・第21号です。全8枚の、1枚目。……越してきた人への、歓迎の回覧でした。
回覧板

7号棟3号階段 回覧 第21号

発行日
4月5日(日)
発行
班長 高野(501)
回覧期限
4月11日(土)までに班長へ

【班長交代】今年度は輪番により、501号室の高野が班長を務めます。一年間よろしくお願いいたします。

【春の一斉清掃】4月19日(日)9時から、階段・踊り場・駐輪場を清掃します。軍手とほうきは班で用意します。

【転入のお知らせ】本日4月5日、302号室に坂口さんが入居されました。お一人暮らしで、ご家族は遠方、近くに頼れる方はいらっしゃらないとのことです。

夜の物音など、お気づきのことがあれば、向かいの野口さん(301)がまとめて伺います。

【回覧板について】202号室の石田さんはご入院中のため、飛ばしてください。402号室は空室です。

4月5日、坂口さんがお夕飯に出られているあいだに、302号室の浴室の排水口へ、長い髪をひと束入れておきました。坂口さんがどなたにお話しになるか、野口さん(301)が聞いております。

確認印
101
大野
102
岸本
201
松井
202
301
野口
302
401
402
501
502

霜見第二団地自治会 7号棟3号階段班 回覧順 101→102→201→301→302→401→501→502→班長 お問い合わせ ミツバ住宅管理(森下)090-xxxx-2811

四月五日、霜見第二団地7号棟の302号室に越してきた。部屋は、母がネットで見つけてくれた。駅に近くて、家賃が安い。荷物は少なく、夕方には片づいたので、夜は駅前の店で夕飯をすませた。

契約のとき、ミツバ住宅管理の森下さんは、申込書の緊急連絡先に母の番号を書かせてから、「保証会社の審査で伺うことになっていまして。近くに頼れる方は、いらっしゃいますか」と聞いた。いません、と答えた。向かいの301の野口さんには、一人暮らしだと知られたくなくて「兄がときどき泊まりに来ます」と言った。兄はいない。

その夜、風呂に入ると、排水口に長い髪がひと束からまっていた。私の髪は短い。前の人のだろうと思って、捨てた。森下さんに言おうかと思ったが、越してきたその日に苦情を入れるのも気が引けて、やめた。三日後、ドアノブに回覧板が掛かっていた。受け取った回覧板は、写真に撮っておくことにした。

引っ越した当日に出た、はじめての回覧板です。ご近所には話していないことまで、書いてあります。

›ヒント1

転入のお知らせに書かれたことを、坂口さんが誰に、何と話したかと見比べてください。

›ヒント2

排水口の髪を見つけたあと、坂口さんは誰かに話したでしょうか。最後の項目と並べて読んでください。

›解説を読む(ネタバレ)

ひとことで言うと

初日の髪は仕込み。誰に話すかで、私は試されていた。

そう言える理由

  1. 1

    「近くに頼れる方はいらっしゃらないとのことです。」

    → 森下さんにだけ答えたことを、班はもう知っている。

  2. 2

    「夜は駅前の店で夕飯をすませた。」

    → この留守のあいだに、班が302の浴室へ入った。

  3. 3

    「越してきたその日に苦情を入れるのも気が引けて、やめた。」

    → 誰にも話さなかったことで、頼れる人がいないと確かめられた。

記録室の追記

ミツバ住宅管理の入居申込書には、いまも「近くに頼れる方」の欄があります。

›もっと詳しく

回覧は、森下さんにしか答えていない「近くに頼れる方はいない」を知っていて、はじめは申込書の中身が漏れただけに見える。けれど最後の項目で、班は越してきた日の夕飯の留守に302へ入り、排水口に長い髪を入れていたと分かる。坂口さんが髪のことを誰にも話さなかったことで、頼れる人がいないのは本当だと、班に確かめられてしまった。

回覧は「お一人暮らし」「近くに頼れる方はいない」と言い切っています。坂口さんがそう答えた相手は、契約のときの森下さんだけ。野口さんには「兄が泊まりに来る」と話してあります。はじめは、申込書の中身が階段の全戸へ漏れただけに見えます。

けれど最後の項目で、越してきた日の夕飯の留守に、班が302の浴室へ入っていたと分かります。排水口の長い髪は、前の人の忘れ物ではありませんでした。班が見ていたのは、坂口さんがそれを誰に話すか。坂口さんは、森下さんにさえ言いませんでした。兄がいないことも、頼れる人がいないことも、これで確かめられてしまったのです。

管理人のくろこ

管理人 くろこ

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