違和感記録室意味がわかると怖い話・毎晩21時更新
記録 No.015分類:書類

寄せ書きの分担表

わたしの送別会の、寄せ書きの分担表です。同僚たちの『思い出』が、少し細かすぎます。

しろちゃんの反応●●●●●読む目安 約2分
  • 文書
  • 人怖
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  • 仕事
  • 心霊なし
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管理人のくろこ

管理人 くろこ

今夜の記録は、ある送別会の寄せ書きの分担表です。……みなさん、よく覚えていらっしゃいました。
申込書

戸田さん送別会 寄せ書き・思い出エピソード分担表(課内限り)

日時
10月2日(金)19:00〜21:00 駅前の和食店・2階個室
主賓
戸田さん(10月30日付で退職)
参加
12名(課員全員)+主賓
会費
4,000円(主賓の分は参加者で負担)
記念品
花束/寄せ書き色紙/思い出アルバム(7年分)
幹事
江口(総務・090-xxxx-2811)

■寄せ書きには、下の割り当てどおり、戸田さんとの思い出を一つずつ書いてください。日付・時刻は、各自の記録のとおりに。

高畑(課長):2019年10月1日。入社初日のお昼は、自席で鮭と昆布のおにぎり。

片山:朝は7時52分の電車。いつも前から3両目、いちばん前のドア。

森川:口ぐせは『まあ、いっか』。最後が少し上がる。

大塚:字のくせ。『と』の書きはじめが、いつも少し離れている。

三浦:金曜の帰りは、駅前のミモザでクロワッサンを2つ。

中原:2022年6月、給湯室に忘れていったカーディガン。洗わずに、匂いごと保管しています。

西田:お母さまのお見舞い。霜見中央病院の4階、火曜と土曜の午後。

小松:アパートの2階の角部屋。夜は0時40分ごろに消灯。

石井:9月3日の夜、ご友人との電話。『少し、環境を変えたい』。

早瀬:浴室の排水口の髪。毎週水曜に回収したものを、7年分ひと束にしました。

杉本:アルバムの写真選び(7年分・84枚。正面・横顔・うしろ姿をそろえて)

江口(幹事):取りまとめ

■備考

※色紙・アルバム・カーディガン・髪は、送別会のあと、江口がまとめてお預かりします。

※11月から戸田さんになる方には、10月中に、この7年分をすべて覚えていただきます。

月曜の朝、会議室のプリンターに取り忘れの紙が一枚あった。金曜に課で開いてくれる、わたしの送別会の資料だった。『戸田さん』はわたしだ。7年勤めて、今月末で辞める。

辞めると決めたのは9月3日の夜、自宅で高校からの友だちの佐和子と電話したときだ。会社ではまだ誰にも言っていなかったのに、次の日、課長のほうから『知り合いの事務所が人を探している』と、次の職場を紹介してくれた。助かった、と思った。

母の入院も、あの電話も、会社では話していない。誰かが、わたしの部屋に入っている。紙をスマホで撮って、元どおりプリンターに戻した。警察に見せても、寄せ書きの割り振りにしか見えないだろう。総務に言おうにも、幹事の江口さんが総務だ。

その週末に、部屋の鍵を替えた。送別会には、笑って出るつもりだ。あと1ヶ月で、ここを出られる。

わたしの送別会の、寄せ書きの分担表です。同僚たちの『思い出』が、少し細かすぎます。

›ヒント1

『思い出』の中に、戸田さんが会社の誰にも話していないことが混じっています。同僚たちは、どこでそれを知ったのでしょう。

›ヒント2

口ぐせ、字のくせ、匂い、髪、正面と横顔とうしろ姿。思い出にしては、集め方が変です。何に使うものでしょう。

›解説を読む(ネタバレ)

ひとことで言うと

課は7年かけて、私になる人の材料を集めていた。

そう言える理由

  1. 1

    「日付・時刻は、各自の記録のとおりに」

    → 思い出ではなく記録。12人で7年、彼女を記録してきた。

  2. 2

    「『と』の書きはじめが、いつも少し離れている」

    → 思い出には要らない。まねをするために覚えることだ。

  3. 3

    「11月から戸田さんになる方」

    → 辞めたあとも、別の誰かが『戸田さん』として出社する。

記録室の追記

送別会は、予定どおり10月2日に開かれました。

11月2日の朝、戸田さんの席では、誰かが鮭と昆布のおにぎりを食べていたそうです。

›もっと詳しく

課の12人は7年間、思い出ではなく、口ぐせや字のくせ、匂い、髪、あらゆる角度の写真まで、私になるための材料を集めてきた。課長が電話の翌日に次の職場を用意したのは、私を会社から出すためだ。11月からは別の誰かが『戸田さん』として、あの席に座る。

入口は、思い出が細かすぎることです。おにぎりの具、電車のドア。そこから洗わずにしまわれたカーディガン、話していない母の病院、消灯の時刻、自宅での電話、浴室の髪へと、下へ行くほど彼女の部屋の中に近づきます。彼女も読者も、課ぐるみで見張られていたのだと考え、辞めれば逃げられると思います。

けれど最後の一行で、集めていたものの意味が変わります。口ぐせの抑揚、字のくせ、匂いの残る服、7年分の髪、正面と横顔とうしろ姿の写真。どれも、見張るためではなく、彼女になるために要るものでした。電話の翌日に課長が次の職場を用意したのは、11月から『戸田さん』の席を空けるためです。

続報あり

この記録には、その後の記録が届いています。

引き継ぎ書 ›

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