引き継ぎ書
新しい職場のファクスに届いた、前の会社からの引き継ぎ書です。辞めたあとのわたしのことまで、書かれています。
- 続報
- 人怖
- 違和感
- 仕事
- 心霊なし

この記録は『寄せ書きの分担表』の続報です。先に読むと、より分かります。

管理人 くろこ
引き継ぎ書(戸田さん分) 前職・総務課より
- 送信日時
- 2026年11月4日 07:48
- 送信元
- 前職・総務課 江口(090-xxxx-2811)
- 宛先
- 事務所の皆さま(8名)
- 別送
- 記録ファイル7冊(年1冊)/アルバムの写し
■ご本人のご様子
送別会では、最後まで笑顔でいらっしゃいました。寄せ書きを読むあいだに、西田のほうを2回見ています。
11月2日から、通勤は8時4分のバス、前から2番目の席に変えられました。
爪を噛むくせが戻られました。机の下に落ちた切れ端は、毎日お拾いください。
11月3日の夜は、『新しい事務所の人たちも、私のことを前から知っている気がする』とお感じです。
前職の戸田さんは、11月2日から問題なく出社しています。お昼は、鮭と昆布のおにぎりです。
■当事務所へのお願い
記録は、これまでどおり日付と時刻を添えて、月ごとに8名で回してください。
なお、11月1日からの記録は、ご本人が毎晩佐和子さんに送る日記を、そのままお使いください。
11月2日から、社員8人の小さな事務所に通っている。前の課長が紹介してくれた職場だ。あの分担表を見たときには、もう退職届を出していて、ほかに行くあてもなかった。
あの分担表のことは、11月1日の夜、佐和子にだけ電話で全部話した。佐和子は長いあいだ黙ってから、『警察には、証拠をそろえてから一緒に行こう。気づいたことは全部、日付と時刻をつけて、毎晩わたしに送って』と言った。その夜から、日記を送っている。
通勤は、電車をやめてバスにした。8時4分発、前から2番目の席。事務所の誰にも言っていない。
11月4日の朝、いちばんに事務所に着くと、ファクスに一枚届いていた。ファクスの受け取りは、わたしの仕事だ。
新しい職場のファクスに届いた、前の会社からの引き継ぎ書です。辞めたあとのわたしのことまで、書かれています。
›ヒント1
引き継ぎ書には、辞めたあとの彼女の様子まで書かれています。新しい事務所の人たちは、それをどうやって知ったのでしょう。
›ヒント2
バスのことを、彼女は誰に伝えていたでしょう。11月3日の夜の気持ちは、どこに書かれていたでしょう。
›解説を読む(ネタバレ)
ひとことで言うと
記録の出どころは、毎晩日記を送る親友だった。
そう言える理由
- 1
「気づいたことは全部、日付と時刻をつけて、毎晩わたしに送って」
→ 課の分担表と同じ書き方を、佐和子は彼女自身にさせていた。
- 2
「『新しい事務所の人たちも、私のことを前から知っている気がする』とお感じです」
→ 盗み聞きではない。彼女が日記に書いた言葉だ。
- 3
「ご本人が毎晩佐和子さんに送る日記を、そのままお使いください」
→ ただ一人打ち明けた親友が、記録を渡していた。
記録室の追記
戸田さんは、いまも毎晩、佐和子さんに日記を送っています。
佐和子さんとは、2005年の春、高校の入学式で隣の席になってからの付き合いだそうです。
›もっと詳しく
引き継ぎ書にある通勤のバスも、爪のくせも、11月3日の夜の気持ちも、彼女が証拠のつもりで毎晩佐和子に送っている日記の中身だ。佐和子は『日付と時刻をつけて』と記録の書き方まで指定し、それを前の会社に渡していた。9月3日の電話の中身が課に知られていたのも、電話の相手が佐和子だったからだ。
入口は、新しい職場にも前の会社の記録が届いていることです。送別会での視線、変えたばかりのバス、机の下の爪。彼女も読者も、紹介された事務所がはじめから向こう側で、8人に見張られているのだと考えます。事務所の誰にも言っていないバスの時刻まで書かれていることが、その予想を強めます。
けれど最後の一行で、記録の出どころが分かります。バスの時刻も、爪のくせも、『前から知っている気がする』という気持ちも、彼女が証拠のつもりで毎晩佐和子に送っている日記でした。『日付と時刻をつけて』は、分担表の『日付・時刻は、各自の記録のとおりに』と同じ言い方です。1話目で課が9月3日の電話の中身を知っていたのも、電話の相手が佐和子だったからでした。

管理人 くろこ
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次の記録まで(No.035〜037・3件)
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