もの忘れ外来の問診票
父の問診票です。父は、三年ぶりに帰ってきた娘を「娘ではない」と言っています。
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管理人 くろこ
もの忘れ外来 問診票 霜見中央病院
- 受診されるかた
- 丹羽 正道 様(74歳)
- 記入日
- 2026年9月24日(木)
- 付き添いのかた
- 丹羽 さやか(長女)
ご家族の記入欄
気になっていること
9月19日、三年ぶりに帰ると、父はわたしを娘ではないと言い、警察を呼びました。
夜中、寝ているわたしの枕元に立って「あんたは誰だ」と聞きます。三晩つづいています。
去年の秋から、毎月の電話がなくなり、はがきが届くようになりました。字がふるえていました。
いつごろからですか
去年の秋ごろだと思います。近所の村瀬さんは、そのころから父が明るくなったと言っていました。毎朝の散歩も、ごみ出しも、きちんとしているそうです。
これまでの病気・手術
2014年 虫垂炎の手術(こちらの病院で)
ご本人の記入欄
困っていること
娘を名のる女が、家にいる。娘は遠くで働いている。顔がちがう。
これまでの病気・手術
とくになし
医師記入
記憶・見当識の検査 30点中24点。年相応のもの忘れ。
当院の2014年の手術記録では、丹羽正道さんはA型。本日の採血ではO型。なお当院7階に、昨年11月から身元の分からない男性が入院中。A型、虫垂炎の手術痕あり。
父は霜見市の実家で、ひとりで暮らしている。母が亡くなってからは、毎月はじめの日曜に、父のほうから電話をくれた。わたしは仕事が遠くて、この三年、帰れていなかった。
去年の秋、電話がこなくなり、かわりに毎月はがきが届くようになった。今月、家の電話にかけると、父は「娘は遠くで働いている。あんたは誰だ」と言って切った。
連休に帰ると、父はわたしを見て警察を呼んだ。警察官はわたしの免許証を見て、娘さんですよと言ってくれた。髪を短くして、眼鏡にもしたから分からないのだ、と思いたかった。
父は「調べてもらえばいい。おかしいのはこの女だ」と言って、自分から病院へ来た。
父の問診票です。父は、三年ぶりに帰ってきた娘を「娘ではない」と言っています。
›ヒント1
父は、娘の顔も、手術のことも「知らない」と書いています。もの忘れのせいだけでしょうか。
›ヒント2
去年の秋に変わったのは、電話だけではありません。近所の人は、そのころの父をどう見ていましたか。
›解説を読む(ネタバレ)
ひとことで言うと
家の父は別人。本当の父は、同じ病院で眠っていた。
そう言える理由
- 1
「毎月の電話がなくなり、はがきが届くようになりました。」
→ 去年の秋から、娘に声を聞かせないようにしていた。
- 2
「そのころから父が明るくなった」
→ 近所の人が見ていたのも、去年の秋からの別の男。
- 3
「本日の採血ではO型。」
→ 家にいる男は、病院の記録の丹羽正道さんではない。
記録室の追記
病院からの知らせに、警察は「昔の記録の書き間違いでしょう」と答えました。7階の男性は、今も名前のないまま入院しています。
三日目の夜から、家の父はさやかさんを「さやか」と呼ぶようになりました。電話も、また毎月かかってくるそうです。
›もっと詳しく
家にいる男はO型で、病院の記録の丹羽正道さんはA型だった。去年の秋から、実家には父ではない男が父として住んでいた。本当の父は去年の11月から、名前も分からないまま、同じ病院の7階に入院していた。娘の顔を知らないのも、手術を覚えていないのも、男がはじめから知らなかったから。
入口は、父が娘を娘と認めないことです。検査では年相応のもの忘れ。手術のことも「とくになし」。年老いた父が、三年ぶりの娘の顔を忘れてしまった、悲しい記録に読めます。
けれど病院の記録は、娘の書いたとおりでした。手術を受けた丹羽正道さんはA型で、問診票を書いた男はO型。去年の秋、電話がはがきに変わり、近所の人が「明るくなった」と言いはじめたころ、父は家から消え、別の男が父になりました。本当の父は、ひと月あとから、名前のない患者として同じ病院にいました。さやかさんと男が座っていた外来の、五つ上の階です。

管理人 くろこ
毎晩21時に、記録が3件増えます。
次の記録まで(No.038〜040・3件/本編 第7話)
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