空きビルの巡回記録
解体を待つ空きビルの、夜間巡回の記録です。三階の倉庫から、毎晩ノックが聞こえます。
- 文書
- 人怖
- 違和感
- 仕事


管理人 くろこ
巡回記録 霜見駅前ビル(10月解体)
- 管理
- ミツバ住宅管理 森下
- 巡回
- 22:00〜6:00 毎正時 1F〜5F
- 鍵
- 共用部のみ。3F倉庫の鍵は森下さまが保管
9/14 22:00 井上、本日から。前任の方は、きのうの晩で急にやめられたとのこと
9/14 1:00 3F奥の倉庫の中から、ノックが三回。森下さんに電話。古い建物なので配管の音です、とのこと
9/15 1:00 3F倉庫、ノック。扉は施錠されている
9/15 2:00 こちらから扉を二回たたくと、二回、返ってきた
9/16 2:30 倉庫の中から「たすけて」と聞こえた。110番
9/16 3:10 警察到着。森下さんが鍵をあける。倉庫は空。棚と、段ボールの山だけ。警察は「配管か、風でしょう」
9/17 1:00 ノック。きのうより弱い。警察に電話。「先日確認しました」
9/18 1:00 森下さんに倉庫の鍵を貸してほしいとたのむ。解体前で床が危ないので、と断られる
9/19 2:00 ノック、ほとんど聞こえない
9/20 22:00 森下さんにたのまれ、1Fに残っていた段ボールを3F倉庫へ運ぶ。森下さんが鍵をあけ、奥の床に積むよう言われる
9/21 1:00〜5:00 3F 異常なし
9/22〜9/29 異常なし
9/30 5:00 最終日。巡回終了
10/2 解体の人から電話。3F倉庫の奥、わたしが9月20日に積んだ段ボールの下に、床下の点検口があった。中に、制服の男の人がいた。前任の人だった。
求人アプリ「ワークルート」に、急募が出ていた。霜見駅前の古いビルを十月に取りこわすまで、夜のあいだ一時間ごとに見回る仕事。あしたから、とあった。
テナントはもう一軒も残っていない。管理会社の森下さんは感じのいい人で、空きビルにはときどき人が入りこむから、それだけ気をつけて、と言った。
巡回記録は一階の警備室にあって、わたしも、自分用に控えをとっていた。
解体を待つ空きビルの、夜間巡回の記録です。三階の倉庫から、毎晩ノックが聞こえます。
›ヒント1
ノックは、こちらがたたくと同じ数だけ返ってきました。配管や風は、数をかぞえるでしょうか。
›ヒント2
ノックが聞こえなくなったのは9月21日からです。その前の晩、井上さんは何をしましたか。
›解説を読む(ネタバレ)
ひとことで言うと
ノックは床下の前任者。ふさいだのは、自分だった。
そう言える理由
- 1
「前任の方は、きのうの晩で急にやめられたとのこと」
→ 前の人は、やめたのではなく、いなくなっていた。
- 2
「こちらから扉を二回たたくと、二回、返ってきた」
→ 音を返していたのは、配管ではなく、人。
- 3
「奥の床に積むよう言われる」
→ 点検口をふさがせたのは森下さん。積んだのは井上さん。
記録室の追記
森下さんは、点検口のことは知らなかったと話しているそうです。段ボールの中身は、古い名簿だったといいます。
ワークルートには今週も、別の空きビルの夜間巡回が、急募で出ています。
›もっと詳しく
9月13日の晩、前の警備員は倉庫の床下に閉じこめられ、やめたことにされた。ノックも「たすけて」も、その人だった。9月20日、井上さんは森下さんに言われるまま、段ボールを倉庫の奥の床に積んだ。そこが点検口の上だった。次の晩から、ノックは聞こえなくなった。
入口は、空の倉庫から聞こえるノックです。入りこんだ誰かか、それとも取りこわしを待つビルに残った何かか。警察が扉をあけても誰もいないので、読んでいる人も、だんだん後者に傾きます。
けれど倉庫の奥の床には、点検口がありました。前の警備員は、井上さんが来る前の晩から帰っていなかった。求人が「急募・あしたから」だったのは、そのためです。9月20日、井上さんは森下さんにたのまれて、段ボールをその上に積みました。ノックが止んだのは、その次の晩からです。記録には、そのあと九日間「異常なし」がならんでいます。

管理人 くろこ
毎晩21時に、記録が3件増えます。
次の記録まで(No.038〜040・3件/本編 第7話)
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