作業伝票の控え
駅前の鍵屋さんの作業伝票です。ひとり暮らしの女性の部屋から、九月に何度も呼ばれました。夜中にドアの外から、鍵をさしこむ音がするそうです。
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管理人 くろこ
作業伝票(控え) 山内キーサービス
- お客さま
- 今井 さおり 様
- ご住所
- ルミエール霜見 305
- ご本人確認
- 運転免許証
9/5(土)10:20 解錠。鍵をかばんごとなくした、とのこと。免許証の住所と写真で確認。部屋の郵便物の宛名も今井さま。棚に、ご両親と写った写真
同日 シリンダー交換。合鍵も同じかばんに入っていたので、全部替えたい、と。古いシリンダーは少しひっかかる。管理会社には自分で連絡する、と
9/9(水)19:00 補助錠とドアチェーン。夜中に、外から鍵をさしこむ音がした、と。鍵穴のまわりに、こじったような傷。前の恋人が、合鍵を作っていたのかもしれない
9/14(月)18:30 ドアスコープをカメラつきに交換。インターホンで、女の声が何度も「あけて」と言う。前の恋人の、今の彼女だと思う。警察の人が来て、その人に注意してくれた、と
9/26(土)11:00 郵便受けにダイヤル錠。郵便を抜かれる、と。番号はご本人だけ
10/1(木) 店に女の人が来た。305の今井です、ドアのステッカーを見て来ました、と。9月5日の夜から、自分の鍵で部屋に入れないという。持っていた鍵は合鍵ではなく、入居のときに渡される番号入りの鍵だった。引き出しの古いシリンダーに差すと、その人は少し持ち上げて、まわした。
霜見駅の南口で、ひとりで鍵屋をやっている。伝票の控えには、作業のたびに気づいたことを書いておく。取りはずした古いシリンダーは、ひと月は捨てずに、店の引き出しに入れておく。何かあったときのためだ。
九月、ルミエール霜見の305号室から、何度も呼ばれた。若い女性のひとり暮らしで、前の恋人と、その今の彼女につきまとわれているらしかった。
九月のあいだに、あの部屋の鍵は四つになった。
駅前の鍵屋さんの作業伝票です。ひとり暮らしの女性の部屋から、九月に何度も呼ばれました。夜中にドアの外から、鍵をさしこむ音がするそうです。
›ヒント1
夜中の鍵の音。インターホンの「あけて」。今井さまは、前の恋人とその彼女だと考えました。
›ヒント2
9月5日の今井さまは、鍵を一本も持っていませんでした。古いシリンダーには、少しくせがありました。
›解説を読む(ネタバレ)
ひとことで言うと
9月の依頼人は別人。締め出されたほうが今井さん。
そう言える理由
- 1
「鍵をかばんごとなくした」
→ 依頼人は、部屋の鍵を一本も持っていなかった。
- 2
「古いシリンダーは少しひっかかる」
→ 毎日その鍵でドアをあけていた人なら、くせを知っている。
- 3
「その人は少し持ち上げて、まわした」
→ 古い鍵のくせを知っていたのは、あとから来た女性のほうだった。
記録室の追記
管理会社の森下さんは、「305の方からは、9月に鍵を替えたとご連絡をいただいています」と答えたそうです。
305号室の郵便受けには、山内さんがつけたダイヤル錠が、今もかかっています。
›もっと詳しく
9月5日に鍵をあけさせ、鍵を替えさせたのは、今井さんではない女性だった。免許証と郵便物はそろっていたが、鍵だけは持っていなかった。本物の今井さんは、その夜から自分の部屋に入れなくなった。夜中の鍵の音も「あけて」の声も、本物の今井さんだった。山内さんは頼まれるたびに、今井さんを部屋から遠ざける鍵を足していた。
入口は、ドアの外の人です。夜中に鍵をさしこむ音、インターホンの「あけて」。前の恋人とその彼女につきまとわれている女性がいて、鍵屋はそれを守っている。山内さんも、読んでいる人も、そう読みます。
けれど9月5日の依頼人は、鍵を一本も持っていませんでした。持っていたのは免許証と、部屋の郵便物だけです。鍵が替わったその夜から、本物の今井さんは自分の鍵でドアをあけようとし、インターホンで名乗り、警察に注意を受けました。補助錠も、カメラも、郵便受けの鍵も、ドアの外にいる本人をしめ出すためのものでした。

管理人 くろこ
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