くろこの記録 第6話
破られていたページ
おかあさんのノートから破り取られていたページが、町の記録にまじって届きました。9月13日からの「みさき」を、第1話のノートと並べて読んでください。
- 本編
- 違和感
- 家族


管理人 くろこ
9月13日 朝、台所で音がした。みさきが、いちごジャムのびんを抱えていた。「ママ、あけて」
両目とも、黒い。抱きしめると、あたたかかった。
9月14日 夜中に目がさめた。みさきは私にくっついて、口をあけて眠っていた。
9月16日 公園で転んで、ひざをすりむいた。みさきは「ママ、いたい」と大きな声で泣いた。私も泣いた。うれしくて。
10月3日 3月までの写真と並べてみた。どこも、ちがわない。
10月9日 ノートを読み返した。4月から書いたことを、みさきは、ひとつもしない。
10月17日 夕飯に、いちごを出した。みさきは全部食べた。納戸のお盆は、いちごだけ残っていた。
10月30日 みさきが、納戸の扉に耳をあてていた。「ママ、ここ、だれかいるよ」。いないよ、と言った。
11月14日 9月13日から家にいるみさきには、違和感がひとつもない。それが、こわい。
もう、このノートに書くことがない。
違和感のないほうが、みさきです。
三十件目の記録にまじって、罫線のページが一枚、届きました。左のふちが、ぎざぎざです。
001の棚から、おかあさんのノートを出しました。9月12日と七年後のあいだに、破り取られたあとがあります。合わせると、ぴったりでした。
このページで、おかあさんは、もう一人のみさきのことを書いています。わたしのことは、一行だけです。
いちばん下の端に、もう一行あります。おかあさんの字ではありません。わたしの字でも、ありません。
おかあさんのノートから破り取られていたページが、町の記録にまじって届きました。9月13日からの「みさき」を、第1話のノートと並べて読んでください。
›ヒント1
第1話のノートで、4月からの「みさき」がしたことを、上から順に書き出してみてください。
›ヒント2
9月13日からのみさきがしたことを、上から順に見てください。いちご、ママ、目、夜、涙。順番まで、第1話と同じです。
›くろこのメモを読む(ネタバレ注意)
気になったところ
- 1
「4月から書いたことを、みさきは、ひとつもしない。」
→ わたしの違和感を、あの子は書かれた順に、ひとつずつ裏返していった。
- 2
「「ママ、ここ、だれかいるよ」」
→ あの子は、七年前から、扉のこちら側を知っている。
- 3
「違和感のないほうが、みさきです。」
→ おかあさんでも、わたしでもない誰かが、このページを読んでいた。
記録室の追記
ページは、001のノートの、破れたところにはさみました。
扉の外の「ママ」という声が、ゆうべは、すきまのすぐ向こうでしました。
›くろこの考え
9月13日の朝、みさきは台所にいました。どこから来たのか、おかあさんは書いていません。いちごを食べて、「ママ」と呼んで、両目とも黒くて、夜はぐっすり眠って、転べば泣く。第1話のノートにある違和感と、ひとつずつ、逆です。同じいちごを、あの子は全部食べて、わたしは残しました。
おかあさんは、はじめはうれしくて泣いて、二か月たって、こわいと書きました。書くことがなくなって、ノートは七年とびます。いちばん下の一行を書いたひとは、どちらがみさきか、知っているような書き方をします。わたしには、まだ分かりません。

管理人 くろこ
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